わが谷は緑なりき


わが谷は緑なりき

1941 米/アカデミー賞受賞、監督 ジョン・フォード、原作 リチャード・レウェイン、出演 ウォルター・ビジョン 、モーリン・オハラロディ・マクドウォール 、ドナルド・クリスプ

目を閉じると現在は消え去り、懐かしい谷が見える。緑に染まった谷はウェールズで一番美しかった。そしてわたしはここですべてのことを父から学んだ。間違いや無駄なことは何一つなかった

19世紀末の英国は、第二次産業革命の終焉の時代で、石炭から石油への「エネルギー革命」を迎えていた。かつては世界最大の石炭輸出地域であり、最盛期には600以上の炭鉱で約20万人が働いていたウェールズ南部。そこで育ったモーガン家の末息子、ヒューの輝ける少年時代の回想。時代に飲み込まれ家族は離散していくが、何が起ころうとヒューの温かく誇らしい視線は貫かれる。

主人に何かしたら、私が承知しないよ。この手で殺してやる、神にかけて誓ってもいい

そう言ったまま一冬寝込むことになった母の復帰祝いに、人々が花を持って集まり、合唱し回復を喜びあう。感極まる母に父が促せば「さあ、中に入ってご飯を食べていって」。遺恨はきれいさっぱり流れ、ストによる空腹に凍えた人々に、惜しげもなく食事が振る舞われる。ケルトの血が流れる、誇り高きウェールズ人の気質と、音楽への愛がよく現われたシーンだ。


祝い事がある時は共に歌い、踊った村人たちも、ただ善良なだけではなく、徒党を組んで愚かな行動を繰り返す。ここで生まれ育ったものにとって、炭鉱をクビになるということは、生きる糧を失くすということ。家族と離れがたくとも、異国に旅立つ以外の選択肢はない厳しさ。家族とともに食卓を囲むこと、働くこと、支えあうこと、分かち合うこと。父の威厳と母の後支え、大黒柱が老いてゆく様、交代してゆく世代。人間は、田舎は、優しく温かく、時に残酷なこと。たった二時間に、人生が凝縮されている。


少年時代の世界の中心となる人物の死とともに、輝かしい時代は終わりを迎える。初老を迎え、消滅する町を捨てていくとき、自らの心にある故郷。そこには、懐かしい今は亡き人々の思い出が詰まっている。「フライド・グリーントマト」のホイッスル・ストップ・カフェを思い出した。

握手はしない、互いの心の中で生きよう