ちびすけ

その日の昼は、若狭まで行って、海をみながら弁当をいただくことにした。道々に丸々太った野良猫が寝転んでいる。風の強い日で、弁当の蓋やらパセリやらが何度も飛ばされ、その度に拾いに走った。向かいの砂浜にも猫が横たわっていて、でも耳の大きさからみると犬じゃないなんていいながら飯を食った。食後、岩場をつたって砂浜までいってみると、それは栄養失調で立ち上がることのできなくなった小さな犬だった。必死に起き上がろうとしているけれど、起き上がれない。すぐに弁当を完食したことを後悔した。今すぐ飯が必要なのはこいつだろうに、なんでその目の前で悠長に食べつくしちまったんだろう。水と食べ物をお願いしてそいつのとこに残った。ブラックタンのチワワをちょっとミニピンぽくした容姿。多分、どちらも入った雑種だろう。腰から下は毛がはげ、ノミだらけだった。触らなくてもわかる位、骨ばった体。かつてフィットしていたであろうピンク色の首輪は、ぶかぶかになっている。何日食ってなかったんだろう。手持ち無沙汰で、空になった弁当の容器を置いてみた。チンジャオロースの油や、トマトソースなんかが多少付いている。置くと、舐めはじめた。二つの容器と、蓋と、いつまでも舐めていた。そのうち立ち上がってゆっくり歩き出した。でも後ろ足は、がくがくいっていた。


そうしているうちに水と缶詰が届く。水には目もくれず、大きな缶詰を半分ほど一気に食った。思いっきり尻尾を振ってるつもりだろうが、弱々しくしか動かない。そのまま置いていくことができずに、連れて帰ることにした。岩場は危ないからと抱えると、尻尾がすごい勢いでまわった。どれくらい誰にも触れられていなかったんだろう。誰も来ないような砂浜の真ん中で、全身ノミだらけで、動けなくなるまで。階段まで登りきると、よたよたと走り出した。動物病院の診察時間は、午後三時から四時にはじまる。それまでどうしたものかと悩み、ペットボックスのお姉さんに相談。シャンプーだけでも消耗して危ないから、獣医に見せたほうがよいと言われる。近所の動物病院を教えてもらったが、やはり時間外。が、話だけは聞いてもらえた。ノミの駆除をしたら一日以上洗えなくなるというので、こうなったら病院が開く前に自力洗ってみようということに。


ペットボックスに戻り、ノミ取りシャンプーとブラシを購入。おばあちゃんちの庭をかしてもらい、ゴシゴシ洗う。水は嫌がるが、ぬるま湯は気持ちよさそう。三度洗いをして、ドライヤーで乾かすと、見違えるほどべっぴんさんになった。それから急いで、Jun動物病院へ。ここの女医先生は、どても好感の持てる人だった。目や、便、皮膚の検査をし、伸びきっていた爪を切った。その間に保健所と警察署に電話。届けは出ていなかった。これじゃ脱走や迷子の可能性は低い。ハゲはカビのようだ。カビなら数年前どきんさんもやった。薬と専用のシャンプーで治るはず。一通り検査を終え、薬とシャンプーをもらい、お礼を言って病院をでた。これからどうしようと話し合い、お互いの家でという話も出たが、まずは里親探しをすることにした。夜まであてを訪ね、今は知人宅にいる。数日中には里親も見つかるだろうとのことだった。


瀕死の動物に手を貸すというのは賛否両論あるだろうが、このまま放置するより元気な姿を見たいと思ったから、それがエゴでもなんでもいいやと思った。攻撃性のない無邪気な性格。可愛がられて育ったんだろう。まずは飼い主を探そうととも思ったが、必死に探しているなら保健所にすら届けがでていないというのは、なかなかありえないことだ。だから現実的に考えてこれでいいかなと思った。理屈として、何が正しいなんて論じることより、食べ物を欲しているこいつの腹になんかやりたかった。理屈ばっかで動けなくなるくらいなら、偽善とでも何とでも言ってくれて構わないや。私は自分に正直でいたい。何かを憎む時も、切望する時も、それは私が生んだものだ。誰の言葉でもない。私の中に自然に生まれた感情を、ルールーや他人の善悪なんかでとやかく言われる筋合いはない。それは、何事につけてもそうだ。里親が見つからなければ、我が家にもう一匹増えることになるだろう。


自分の足にもたれて寝ているのも、顔中に食べかすつけてるのも、可愛かったな。また会いたいなあ。