悪夢

私が小さかった頃、近所の友達やその弟妹たちと、いつものように近所で遊んでいた。どの路地のどの位置か、今でも鮮明に思い出せる。その幅のあまり広くないアスファルトのT 字路は、沿って建つ民家と生垣で仕切られていた。ある時、その生垣の葉の隙間から、何かの模様が凄い速さで横切るのが見えた。私がそれに気付き、言葉を発する前に逃げようとしたのも、足がすくんで動いていないことに気付いたのも、身の丈の五倍ほどもある大蛇が目の前に姿を現したのも、瞬きをするのほどの間のことだった。


みんなが一斉に悲鳴を上げ逃げ出す。私は腰が抜けてしまい、立つことすらできない。そんな私を近くにいた誰かが助け起こした。私は引き上げられた反動で、そのままその子を追い越し、みんなと同じ、ある家を目指した。その家はそこから一番近所で、50メートルほどの直線上にあった。短い距離を七名は全力で走った。誰かが捕まり食われた。後ろから壮絶な悲鳴と助けを呼ぶ声が聞こえて、でも振り向くこともできずに必死で走った。


目指す扉が見えてきて、一人ずつその中に消えて行く。私が戸の前に着いたときには、大蛇との距離は肌が触れそうなほど狭まっていて、中に入ると同時に慌てて戸を閉めた。後ろには弟がいたのに。開けてと叫ぶ声、戸を激しく叩く音、悲鳴、泣き声、奇妙な音、戸を叩く音が段々と弱まり、何も聞こえなくなっていくのを、扉を凝視しながら聞いていた。



起きた時はすごい汗と涙だったと思う。


瞬間的な危険信号、あしが竦むこと、腰を抜かすこと。夢を見た幼い私が、これらを経験していたのか分からない。記憶にある限りでは、腰を抜かしたことはないように思う。でも、妙にリアルだった。

危険を知らせず、逃げようとしたこと。助けてくれた人や弟を、見捨てたこと。チャンスは何度もあった。気付いた時点で声を発していれば、助け起こしてくれた人を先に行かせていれば、悲鳴に振り返り手を延ばせば、全員逃げ切るまで戸を開けておけば、一度閉めた戸を開ていれば。頭で考えれば分かるのに、口では何とでも言えるのに。私は咄嗟にそういうことをする人間だ。それを知ってしまったのが、何より恐ろしかった。