シロアリと夏のおもいで 四

シロアリと夏のおもいで 壱
シロアリと夏のおもいで 弐
シロアリと夏のおもいで 参


うごめくヤツ等はシロアリだった。どうりで木がべこべこだった。専用の薬を撒かにゃいかんと言われる。小動物がいるから薬は超反対なのだが聞いてもらえない。市販のシロアリ退治薬の注意書きを読んだ。「人間や他の生き物へ与える害は低い」 とある。低いっていうのは害があるってことで我家の2kgにも満たないちびっこの事考えると怖かったのは後日談。


その週末は内地に飛ぶ予定。同僚に再び娘らを預かってもらえないかと頼み、散布後は丸二日換気をしてもらう約束で落ち着いた。が、そんななか台風接近。換気できるのか? それ以前に、飛行機飛ぶのか!? とか言ってられない忙しさだった。夜中に荷物を詰め直して全て部屋出ししたり、PC等の家電や布団を梱包したり。ほどいたばかりの荷を詰める虚しさ… 島に来る時、プラスチックの衣装ケースは邪悪だ! と思い、ずっと引越しの時使ったダンボールをそのまま服入れに使っていた。特に不便は感じなかったけれど見ちゃったじゃないですか。ダンボールの中びっしりいるやつ等を。大家さんにも部屋にダンボールを置いておくなんて正気の沙汰とは思えない的なことを言われ、「南国では常識だったのか」と軽く丸め込まれ、泣く泣くプラスチック製品を買いに走った。南風原ジャスコニトリで大量にお買い上げし、さあ時間もないし帰って詰め替えるぞーと思うも… 持てない。デカイの何個も一度に持てね… 好奇の視線を浴びつつ背丈を軽く上回る山積みのブツをなんとか駐車場まで運ぶ。駐車場に待ってたのは12歳になる単車エストレヤさん。1時間くらい試行錯誤して背負ってみたけどどうやっても無理。明日には出発できるかもあやしい感じで泣きながら往復した。


さらに糞忙しい中、ウロウロしているヤツ等に近況を知られたり連絡手段を与えたりしないため、片っ端からアク禁や着信拒否をかけてまわる。あの手の輩はなんだって面と向かうと何一つ言えないくせにメールだと強気なのか。弱っている時の鳴り止まない電話やメールは無駄に神経を参らせる効果がある。そんなこと今まで知らなかった。ひとつずつは全くたいしたことない話だが、逃げ出すように始めた二匹との新生活のなか、この手持ち時間の無さ、悪天候、頼る者の無さに加えたアリとストーク屋の仕打ちは堪えた。そして、今まで生きてきた町から遠く離れたとこに居ることを初めて自覚した。


仕事の合間に寝ずに準備し、週末、無事飛行機は飛んだ。この頃ちょうど誕生日で、残暑の旅は十分過ぎるほど癒してくれた。久しぶりに安心しきってたらふく飲み、大浴場にゆっくり浸かり、思いがけず祝っていただく。アリのことなんて忘れきって幸せなひと時を過ごした私は、浮かれすぎて最終便に乗り遅れる失態。バースディ得割なのに正規でお求め直し、田舎の駅で酒瓶片手に野宿、朝方オマワリに補導され、「沖縄へ帰るんだよう」と泣きながら訴えると、オマワリは後ずさりながら「が、がんばって」とか言って去った。翌午後、やむなく下駄で重役出勤。白い目で見られつつその日は深夜までの残業で新人歓迎会出席の許可がおりなかった。でもいい。良い旅だったし、娘らが元気ならばなんの問題も無い。久しぶりに部屋に戻ると、やつ等はすっかり消えていた。台風も運良くそれて、換気もできていた。


全て解決したかに見えたシロアリ事件は、このままバタバタした日常がやっと落ち着く四月に再び現れる。再び現れたやつ等は私のささやかな菜園に住み着いて荒らしたり、部屋を引っ越すことになったり、さらにこれでもかと新居に沸いたりと酷かったけれど、もう当時ほど辛くは無かった。やつ等も森の枯れ木を土に返すって重要な役割があって、消えた森のかわりに町で暮らしてるんだそうだ。散々だったけれどこの件がおらを元に戻したんじゃないだろか。よく振り返ってみるまでもなく同僚に非常に迷惑をかけているが、それでもあのうごめくものを独りで駆除したのは自分なんだと。一緒に叫ぶ人がいなくても何とかなるんだって思い出した。書き留めておこうと思っても書けなかった。詳細に思い出すのも辛かったのに。一年経って、いつのまにかちょっと笑える思い出。


おわり