シロアリと夏のおもいで 参

シロアリと夏のおもいで 壱
シロアリと夏のおもいで 弐


昼は楽しかった。梅雨の明けた夏の空に鳳凰木が満開で。たった三十分だけど、毎日いろんなことした。二匹とシーツを洗ったり、本棚の整理をしたり、飯を作ったり。独りでとも言うが。やっと家で笑えた。ここは安全だと思った。おらの城だ。城が…


クローゼットを開けると、上段下段共に虫の死骸がどさっと降ってきた。昼だけで二週間、やっと荷解きが終わった荷物の上に。何がなんだか分からないまま、荷を丁寧にベランダに移す。布類は全て洗い、他は掃除機で吸い、水拭きし、最後にベランダを流した。クローゼットの掃除に1日かかり、なんとか全部きれいになったところでやっと疑問に思う。これはどこから来たのか。その上にあるのは天袋。引越し時の空箱が収納されてた(空箱が捨てられない病は元Macユーザーの証)。踏み台もなかったから、ストーブによじ登って戸を開けてみる。


悲鳴をあげた。ホラー映画のCMみたいな悲鳴をあげてしまった。ムンクみたいな顔で。しかも独りで。収納なのか箱なのか虫なのか分らないくらいイロイロイロイロうごめいてる。その空間が丸ごとうごめいてる。どうでもいいけどうごめくって漢字が既にきもい。 *蠢く - 虫がはうように絶えずもぞもぞ動く。 うへ。逃げ出したいけど、それじゃ解決しない。


今思えばどころか書いてるうちに分かってきた。これがすごいんだこれが。根本的な選択肢のなさがすごい。どうしようーとか思えないのだ。そんな余地や選択肢はない。そんなカードは端っから持っていない。この強さっていったら! 例えば家族でもいたら大騒ぎになるんだろうし、近くに誰かいれば相談すんだろうし、そういう選択肢が微塵もないまま動く。思い出した。仕事だって旅先だっていつもそうだった。辺境で動けなくなったって淡々となんとかしたみたいに。多分、おらはこれが大事なんだ。自身の甘えが苦手なんだ。選択肢のなさをいつも持ってよう。これ忘れると落ちちゃうんだ。


絶叫しながら、虫だかダンボールだか分らなくなった蠢くものたちをなんとかゴミ袋に収め、残りを全部掃除機で吸い取り、水拭きし、そのまま薬局に行って覚えていないけど多分ダニアース的な物を買ってきた。キレイになった天袋に設置し、ピンを抜いて戸を目張りし、家を出た。何が起きたのか分らないまま、どきんさん、あくびさんを抱いて、階段に腰を下ろしビールを飲む。新築やマンションは嫌いだからボロアパート暮らしが多かった。むしろボロアパートを磨きながら住むのが好き。趣味みたいなもん。それでも、こんなことはかつてなかったのに。あれは何者なのか… 疲れた。だんだんと日が暮れてきた。缶ビール片手に途方に暮れてると通りかかった大家さんに話しかけられる。世間話をするうちに昨日、又隣の部屋で大掛かりなシロアリ駆除があったことを知る。それがシロアリとの出会いだった。できれば生涯出会いたくなかった。


つづく(かも)
シロアリと夏のおもいで 四