登紀子さんの言葉

インドネシアで森に木を植えるボランティアをしている女の子がこんなことを話してくれたんです。


村の人と一緒に植林するわけだけど、ある日、植林したところに行ってみたら、木が全部なくなってた。

植えた苗を引き抜いて売りに行ってしまったというのね。
森が生まれることより、その日の生活がたいへんで。

それで植林してくれた人に少しばかりでもお金を払うことにしたら、今度は森に火をつけて燃やしてしまった。
もっと植林の仕事がほしいから───。

生きることはむごいことだなって思いましたね。

南アフリカに行ったときは、黒人居住区のソエトを訪れました。

そこはアパルトヘイト時代、木を植えることも畑をつくることも、土地を所有することはおろか、ものを売ることも禁じられていたそうなんです。

たいへんなショックだった。

太陽はかんかんに照っている真っ青な空なのに、緑がない。
土はあるのに何も育っていない土地。
そこまでの状況に置かれていたのかって。


スラムの貧しさも、いまは従来と根底的にちがっている。

これまでは、日照りで雨が降らないために収穫が少ない。
それをぐっとこらえて来年がんばろう。
土の上に生きている人間が、動物のように自然と闘う、その困難さでありたいへんさだった。

それがいまは貧しい人がマクドナルドで買ったものを食べているわけ。
昔なら、貧しくても、土に芋を植えて、山から木の実をとって食べるという姿だったはずが、お金で買わなくちゃいけないものを食べている。
安いかもしれないけれど、金銭収入のない人にとってはたいへんな金額なのに。

ものを自分の手でつくり、自分で土の上に栽培し…という、手仕事的な農作業、そんな大昔からの独自の文化が世界中から一掃されようとしている、そんな不安があります。